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Broadband Wireless Distribution Systemの研究

 最大伝送レート2Mbpsの第3世代移動通信が実用化され、第4世代移動通信すなわち新世代モバイルへ向けた新たな取り組みが本格化 しつつあります。国際 電気通信連合の無線通信部門、通称ITU-Rでは今後の通信サービスのあり方を詳細に検討し、その結果、2010年ごろまでに100Mbpsの伝送速度を モバイル環境で提供可能にしようとする目標を掲げました。しかし、これほどの高速伝送を行おうとすると、基地局の守備エリア(セル)は現在の移動通信シス テムのそれから随分と狭くなり、広範囲なエリアをカバーしようとすると膨大な数の基地局の敷設が必要となります。基地局数の増大は設備投資の増大を意味 し、一方で通信料の価格競争が今後激化することは必至であるため、新世代モバイルの実現に際しては低コスト化要求とブロードバンド化要求という相反する2 つの要求による板ばさみ状態で決定的な手法が未だ出現していないのが現状です。

 現在の新世代モバイルに関する研究のトレンドを見ると、適応複数アンテナ制御(適応アレイアンテナやMIMOなどの検討に代表される)やチャネル容量の 理論限界に近い特性が得られるとされる符号化変復調技術(ターボ符号とOFDM変調等との結合に関する検討などに代表される)などを取り入れることに主眼 が置かれています。その発想には複雑な信号処理を無線装置に取り入れることで限りある周波数資源を有効利用しようとする従来からの視点があります。しかし 空間に分散する多数のユーザの面倒をみなくてはならない移動通信システムにおいては、これらの技術だけで100Mbpsクラスの伝送レートを達成する新世 代モバイルを成立させることは困難です。また、これらの技術が周波数有効利用という目標に対して唯一無比の技術でもありません。

 さて、ブロードバンド化に伴うセルの狭小化は上述の通り必然で避けられないのですが、一方で周波数利用効率の向上という観点からは逆に有効です。セル半 径を半分にすれば周波数利用効率は4倍に増大し、狭くすればするほどシステムで必要とするチャネル数をいくらでも削減することが可能なのです。ブロードバ ンド化によるセル狭小化は必然で不可避、ならばその高い周波数利用効率をいかにして生かすか・・・我々はこの視点による検討を行い、その一つの解として新 しい移動通信網アーキテクチャ、Broadband Wireless Distribution Systemの提案を行っています。


Broadband Wireless Distribution Systemとは?

Broadband Wireless Distribution Systemとは次のようなシステムです。バックボーンネットワークとの接続のため有線回線に接続されたコア基地局(もしくはコアノード)を定め、当該基地局を取り囲むように狭小セルのリレー基地局(もしくはリレーノード、中継ノード、中継基地局)同士を無線で中継接続し、広いエリアをカバーします。概要を図1に示します。

図1 Broadband Wireless Distribution Systemの概要

リレーノードならびにコアノードは端末との通信のためのブロードバンド無線回線も装備し、端末から送信されたパケットもしくは端末へ向けたパケットの橋渡しも行います。リレーノードが端末から収集した、あるいは端末へ向けた通信パケットはノード間を多段中継(マルチホップ中継)されます。このように各基地局を無線で中継接続することによってインフラ敷設費用の最も大きな部分を占める有線回線コストを低減するのです。

このような無線によるDistribution Networkは現在のセルラーシステムでも特に欧米では一般的に用いられています。しかし、提案システムであるBroadband Wireless Distribution Systemは、新世代モバイルを実現するため各基地局ノードへ要求される仕様が従来のDistribution Networkのそれとは異なります。具体的には、(a)大容量かつ高効率な中継回線を提供すること、(b)電波環境の変化への高い適応性を有すること、そして(c)低コストかつ小型軽量であること、以上の3つです。(a)の大容量かつ高効率な中継回線の実現は、ブロードバンドトラフィックを吸収するために不可欠です。(b)の電波環境への高い適応性は、狭小セルの形状が周辺電波環境の変化に敏感であるため、適応的に送信電力を制御したり、あるいは中継経路を変化させたりする機能による実現が重要です。(c)の低コストかつ小型軽量であることはセル狭小化により膨大な数の中継ノードが必要であってもその敷設コストを低減する効果を発揮します。これらの課題に対する有効な解を得ることが我々の研究対象です。そして、最終的には手のひらに収まるくらい小型の基地局ノードの実現を目指します。


アドホックネットワークとの違いは?

類似の技術としてアドホックネットワークがあります。アドホックネットワークとは、たまたま近距離に存在する端末群が互いにパケットを中継しあって電波の届かない端末同士でも通信を可能にする適応型ネットワークを差します。世界中を見渡すとアドホックネットワークを手がける実に多くのベンチャー企業を発見することが出来ます。基地局を必要としない点で非常に面白いシステムですが、端末が存在しなければネットワークは構成されず、このような確率的にしか通信エリアが確保されないシステムがユーザに受け入れられるものであるかは慎重な考察を要すると思います。これに対して、Broadband Wireless Distribution Networkは無線で中継接続された基地局をきちんと設置しますので、リレーノードがある限り通信エリアは確保されます。また、Broadband Wireless Distribution Networkでは、リレーノード間は基本的に固定無線回線であるため、端末が移動するアドホックネットワークよりも高密度な中継回線が実現でき、周波数をより効率的に利用できると考えられます。


MIMOや符号化変調技術との関連は?

Broadband Wireless Distribution Systemでは中継回線の伝送容量がボトルネックとなってシステムの特性が決定付けられます。いかにして大容量かつ高効率な無線中継ネットワークを構築可能とするかが最大の技術課題です。大容量中継回線を実現するためにはMIMOや符号化技術等の適用は非常に有効です。ここで述べたMIMOや符号化技術の適用対象はあくまで中継回線に対してであり、先に述べた従来のこれらの技術の検討対象はアクセス回線(端末~基地局間の無線回線)でした。 Broadband Wireless Distribution Systemにおける中継回線は固定無線回線で、かつユーザ端末ほどのサイズ・重量に制約がないため、MIMOや符号化技術の適用が極めて有効に働くものと考えられます。